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NABEちゃんコラム

CAPS専任の構造設計一級建築士渡邊浩幸がお届けするページです。
第二回は「耐震基準について」です、疑問質問等がありましたら渡邊宛にメールにてお願い致します。

2010年3月25日 新耐震設計基準について考えること

1)耐震基準の変遷について
建築基準法の耐震基準の変遷と主な大地震の発生時期を交えて以下に記します。

1950年(昭和25年) 建築基準法制定
  ・壁量規定(床面積に応じて筋かい等を入れる)の新設。
1959年(昭和34年) 建築基準法改定
  ・壁量規定の強化。
  {1964年(昭和39年)新潟地震M7.5}
  {1968年(昭和43年)十勝沖地震M7.9}
1971年(昭和46年) 建築基準法施行令改定
  ・基礎はコンクリートの布基礎以上とする。
  ・壁量規定に風圧力の概念も追加。
  {1978年(昭和53年)宮城県沖地震M7.4}
1981年(昭和56年) 建築基準法施行令大改正【新耐震設計基準】
  ・壁量規定の見直し。
  {1983年(昭和58年)日本海中部地震M7.7}
  {1995年(平成7年)兵庫県南部地震M7.3}
1995年(平成7年)  耐震改修促進法制定
  ・1981年(昭和56年)以前の建物には耐震診断が義務付け。
2000年(平成12年) 建築基準法改正
  ・地耐力に応じて基礎形式を特定(地耐力20〜30kNではべた基礎)
  ・継手、仕口仕様の特定(筋かい端部の金物やホールダウン金物が必須)
  ・耐力壁の配置にバランス計算が必要(四分割法又は偏心率の計算)

2)新耐震設計基準の概要
新耐震設計基準とは前項から分かる様に実際の大地震から得た教訓を基に、それまでの耐震設計法が抜本的に見直され、1981年(昭和56年)に大幅に改正された設計規準の事を言います。では新耐震設計基準以前の耐震設計基準とは具体的にどこが改正されたのでしょうか。大きく分けて3つあります。
@ 構造計算する上で地震力に動的な配慮が加えられた。
建物の高さ方向で地震力が変わる事(上階にいく程、地震力が大きくなるように係数を設定)や地盤の種類により地震力が変わる事。
A 許容応力度設計と保有水平耐力設計を導入した。
許容応力度設計とは、10から20年に一度くらいの頻度で起こりうる中規模地震(加速度200ガル程度)に対しては全く損傷しないように設計する事。保有水平耐力設計とは建物の耐用年限中に一度遭遇するかもしれない大地震(加速度400ガル程度)に対しては損傷や変形は生じても倒壊には至らないように設計する事。
B 層間変形角の制限、及び偏心率・剛性率の制限を設けた。
以上の三つです。この中でも以前と大きく改正された所は実はAの保有水平耐力設計です。保有水平耐力とは外力に対してその建物が持つ最大限耐え得る耐力の事です。コンピューター上で建物を横から繰り返し荷重を加えていき、最終的にその建物の保有水平耐力より大きい外力を加えて建物を崩壊させます。その崩壊形を見てその建物が安全かどうか判断します。つまり、ある層が部分的に崩壊(例:1階駐車場のピロティー形式建物の1階部分層崩壊)したり、せん断破壊崩壊(例:建物形状のバランスが悪いとある部分が集中的に力が集まって急激に崩壊する)する事を避け、全体崩壊形(建物に粘りがあり全体的に崩壊する形)にするように設計します。これらはコンピューターの発達に伴い構造計算ソフトも充実され、複雑な計算が出来るようになった事で、建築基準法にこの計算方法が取り込まれました。しかし木造住宅の設計に関連する項目は@とBの一部だけです。もともと耐震設計は、主に鉄骨造や鉄筋コンクリート造等の構造計算が成り立つ建物で使用している設計方法です。木造住宅では鉄骨造や鉄筋コンクリート造のように材料や仕口部が規格化出来ないため、モデル化する事が困難な事から、あまり耐震設計としては確立されてきませんでした。そこで建築基準法では、耐震要素である耐力壁をある程度設ける事で対処してきました。その耐力壁の必要長さを、建築基準法で壁量規定として決められています(耐力壁の必要長さは過去の大地震からでた経験値)。壁量規定とは、構造計算をするのではなく、建物の階数や材料(屋根・外壁)の重さによって係数を定め、床面積にその係数を乗じて耐力壁の必要長さを求める方法です。そして新耐震設計規準といわれる1981年(昭和56年)の改正で、壁量規定も大きく改正されました。
ここで建築基準法の壁量規定の規定値の変遷を以下に示します。

<壁量規定の床面積に乗ずる規定値>
単位cm(床面積1u当り)
                 (平屋)    (2階建て)     (3階建て)
屋根・壁が重い 改正年          2階  1階     3階  2階  1階
           1950年   12      12   16      12   16   20
           1959年   15      15   24      15   24   33
           1980年   15      21   33      24   39   50

屋根・壁が軽い 改正年          2階   1階     3階  2階  1階
           1950年    8       8    12       8   12   16
           1959年   12      12    21      12   21   30
           1980年   11      15    29      18   34   46

上記の係数に床面積を乗じた値が必要耐力壁長さです。実際の耐力壁長さ(耐力壁長さx壁倍率)が必要耐力壁長さよりも大きければOKになります。具体的に瓦屋根の2階建て建物の1階部分を計算してみます。1階床面積50uとすれば、必要耐力壁は上表より33x50=1650cmになります。耐力壁に筋かい(片方向)のみ使用とすると、筋かいの壁倍率は2.0なので3尺(91cm)の長さの壁を10枚入れれば2.0x91x10=1820cmになり必要耐力壁以上になります。この耐力壁をX、Y両方向入れます。2階部分も同様な計算方法になります(解り易くする為に風圧力検討、地盤種別、偏心率等を省略しました)。

3)新耐震設計基準の問題点
上記の壁量規定で問題なのは、壁量規定で耐力壁量を求める際に、床面積だけで建物形状(L字型や凹型)が考慮されていない事。吹抜等がある場合で床剛性が部分的に弱い事。偏心率の計算(四分割法でもよい)が2000年に導入されたが、耐力壁が偏って配置されていても計算上は満足する事が多い事。又、壁量規定はあくまでも略算法であり、実際に構造計算をしてみると、壁量規定の必要壁量より1.5倍から2.0倍近く壁量が必要になる事等があげられます。
 以前から、新耐震設計基準以前と以後の建物の安全性が問題になっています。
最近では15年前の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)や新潟中越地震は、テレビ等でご存知かと思います。その中で木造住宅の被害状況はどうだったのでしょうか。兵庫県南部地震では、木造住宅の倒壊が39万戸以上と言われています。その内訳はプレハブ工法や2x4工法に比べ、圧倒的に在来軸組工法の被害が大きかったようです。近年開発されたプレハブ工法や一定のルールや規制がある2x4工法が地震に強かったのは事実です。しかし在来軸組工法でも倒壊した建物のほとんどは新耐震設計基準が施行される以前の古い建物、あるいは新しい建物でも壁バランスが悪かったり、施工不良が原因だったと報告されています。この事で、兵庫県南部地震では新耐震設計基準は概ね安全であると証明される一方で、新耐震設計基準が満足されていても壁バランスが悪かったり、施工監理がしっかりされていなければ意味がない事を露呈しました。
一方、新潟中越地震では新耐震設計基準で建てた比較的新しい建物でもある程度被害があったようです。ある専門家の話では、新潟中越地震は兵庫県南部地震より地震のエネルギーが大きかった事や繰り返し大きな揺れが来た事で始めに来た地震には耐えたが2回3回と続けて来た事で倒壊したと言うことです。木造住宅も前項の保有水平耐力設計をしていれば粘り強い為、倒壊も免れたかもしれません。まだ、地震後間もない為、専門家達の詳しい検証報告を待たなければなりませんが、少なくても以下に示す大地震の被害原因を改善すれば、被害は少なかったと考えられます。

<今までの大地震の被害原因>
・新耐震設計規準(昭和56年)以前の建物
 規準が古いため、耐力壁不足の場合が多い。
・地盤が悪い
 軟弱地盤や液状化地盤、がけ地盤、切土・盛土による不同沈下等の問題。現状はSS試験で換算N値(地盤のある強さを示す値)及び支持力を出しているが、SS試験だけでは、これ等の問題は分からない事が多い。最近の住宅保証機構の講習会ではボーリング調査で標準貫入試験を行うことを薦めていました。
・構造計画の不備
 壁量のバランスが悪い(偏心率が大きい)。狭い間口で大きい開口がある。吹き抜けが多い。建物の形状が悪い(L字型、凹凸型、平面的に細長い等)。建物隅角部の片方以上に3尺以上の壁がない。以上を見ると、最近のモダンな建物にありがちなので注意を要する。
・施工不良
 基礎(コンクリート強度、断面不足、かぶり不足、補強筋がない等の不具合。)、金物(アンカーボルトやホールダウン金物、その他規定の金物を正しく施工していない。)、主要構造部(柱、梁、その他の断面不足、仕口不良)等。これらの問題は全て、施工監理がしっかりされていない事に尽きます。
・メンテナンス
 屋根や外壁の補修。雨漏りの補修。点検等。
大地震ではこれらの原因が複雑に絡み合って、建物の崩壊につながると思われます。現在、木造住宅は2階建て(一定の規模)までならば4号特例により確認申請時に構造計算書を必要としません。これは構造的な検討が必要ないのではありません。これから木造住宅を設計する上で上記で述べた壁量規定の問題点や大地震の被害原因等を十分理解し、構造計画の重要性をしっかり認識しなければなりません。

今もこれからも木造住宅に住む人は多いと思います。この人々の命を守る為に、我々木造住宅を建築する仕事に関わる人の責任は重大だと考えます。    CAPS 渡邊浩幸



2010年3月5日 「強い床が大切です」

 地震に強い家にするには「耐力壁を多く入れる事」の他に大切な事があるのをみなさんご存知ですか。
地震力や風圧力などの水平力に抵抗する部材として耐力壁があります。 その耐力壁がそのまま地面を踏ん張っていれば問題ないのですが、水平力に対して耐力壁を支えているのは主に床です。 2階建てであれば、2階の耐力壁から2階床、2階床から1階耐力壁、更に1階の床、基礎、地盤へと抵抗する力は伝わります。 そこで地盤が抵抗する事で、初めて水平力に対して力がつりあい、建物は横に移動しません。
耐力壁がバランス良く配置されていれば問題は少ないですが、実際には南側に大きな開口があったり、道路側に車庫がある場合などの耐力壁が片側に偏っている建物も多いと思います。 その場合、建物全体が完全に「剛の床」であれば建物全体で水平力を受ける事が出来ますが、建物の形状が平面的に凸凹形やL形で、階段や大きな吹抜けがある場合は床の巾が狭くなるため、床が壊れてしまいます。 その結果、建物全体として水平力に抵抗できずに、耐力壁の少ない側の方が振られて、建物が回転を起こしたりねじれてしまいます。 地震などの繰り返し振動を受けると、建物の振られた側の振幅が大きくなって、倒壊してしまう危険があります。
 建築基準法では、木造2階建て程度の規模は構造関係の規定を省略できることになっており、構造計算(許容応力度計算以上の詳細な計算)を必要としていません。 これを『4号特例』といいます。 ただし、構造計算をしない代わりに『壁量規定』があり、略算的に床面積や建物の見付面積に対して一定の割合で壁量を配置しています。
平成12年には壁量のバランスや使用金物が明示されるなどの改正がありましたが、現在の木造2階建て住宅は構造計算で必要な床の計算や柱・梁の計算、基礎の計算などは未だにしておらず、上段に記した検討がなされていない建物が殆どです。
 『壁量規定』では耐力壁の量やある程度バランスよく壁を配置できますが、上記のような建物形状では十分な床の巾がとれない建物は、水平力に対して安全であるとは言えません。

 今後も随時新しい情報をお届け致しますので、お楽しみに       CAPS 渡邊浩幸